海外情報和訳AMERICAN ASSOCIATION OF AVIAN PATHOLOGIST

 

What we know about avian coronavirus infectious bronchitis virus (IBV) in poultry

— and how that knowledge relates to the virus causing COVID-19 in humans

 

家禽のコロナウイルス(伝染性気管支炎ウイルス)について知られていること

ヒトのCOVID-19とどのような関連があるか

 

Author: Mark W. Jackwood, MS, Ph.D.

Department of Population Health, Poultry Diagnostic and Research Center, College of Veterinary Medicine, 953 College Station Road, University of Georgia, Athens, GA 30602, USA

 

 


COVID-19によりもたらされる多方面にわたる問題を理解する上で、鶏の伝染性気管支炎ウイルス(IBV)をコントロールしてきた家禽の専門家の多くの知見と経験が役に立つかもしれない。

コロナウイルス(CoV)は、Alpha、Beta、Gamma、Deltaの4つのグループに分かれる。CoVはヒトや哺乳類、家禽を含む鳥類における多種の疾病の原因ウイルスである。CoVに起因する疾病は、呼吸器、腸管、神経、腎臓、肝臓障害など広範な症状を引き起こす。鶏に呼吸器症状を起こすIBVは、ヒトに感染を起こさないGammaCoVグループに分類される。

COVID-19ウイルス(COVID-19V)は、SARS-CoVおよびMERS-CoVと同じくBetaCoVグループに分類される。SAR-CoVが家禽に感染しないことは過去の研究により知られている。(*1)  COVID-19VがSARS-CoVと同じグループに分類され、宿主細胞に感染する際に同じACE-2レセプターを利用することから、未だ科学的に立証されていないものの、COVID-19Vが家禽に感染、もしくは発症させることは極めて考えにくい。これまでに得られている情報や鳥類のCOVID-19Vの感染報告がないことを元に考察すると、家禽や家禽用製品(ワクチン)がヒトのCOVID-19の感染源であることは考えられない。

COVID-19の主要な感染ルートは、眼、鼻、口への飛沫感染である。感染力は高いものの、エンベロープを持つウイルスであることから、石鹸や一般的な消毒薬で容易に不活化することが出来る。

最近よく問い合わせを受けるCoVに関する質問とその回答を以下に示す。

CoVはどこから来たのか?

 

哺乳類のコロナウイルス(Alpha、Beta)のレゼルボアとしてコウモリが広く知られている。世界には約1,240種ものコウモリが存在し、同じかそれ以上の種類のCoVを持っていると考えられている。SAR-CoVおよびMERS-CoVはコウモリをレゼルボアとし、中間宿主を経て、ヒトに飛来してきた。COVID-19Vもコウモリ由来と考えられており、コウモリから分離されたウイルス株のいくつかはCOVID-19Vに遺伝的に近縁であったことも報告されている。COVID-19Vの中間宿主が何であるかはこれまでに同定されていない。

IBVを含む家禽のCoVのレゼルボアも未だに解明されていない。キジ、アヒル、ガチョウ、ハトなどの野鳥及び家禽由来のいくつかのウイルス株に遺伝的相関がみられているが、真のレゼルボアを確定するに至っていない。

 

なぜCoVに対するワクチンの開発は難しいのか?

 

鶏のIBやヒトのCOVID-19などの呼吸器疾病に対する防御免疫には強力な局所免疫反応が欠かせない。家禽用においてはウイルスの弱毒化によりワクチンの開発に成功しているが、弱毒化の過程で局所免疫の誘導能が低下することがよく起こるため一般的にCoVに対する生ワクチンの開発は難しい。実験室内では発育鶏卵や細胞培養でウイルスを継代することにより弱毒化は行われるが、感染力と免疫誘導能を維持しつつ弱毒化することは困難である。継代を重ねすぎるとワクチンの安全性は高まるものの免疫原性は低下する。その一方で、継代が足りないと局所免疫の誘導能は高まるが激しいワクチンリアクションを起こすことにつながる。この結果として病原性復帰が起こることも懸念される。

IBVワクチン開発に関わった我々の経験をもとに考えると、許容できるレベルの安全性と有効性を示すCOVID-19Vの弱毒生ワクチンの開発はとても難しいといえる。

 

CoVに対して不活化ワクチンを使うのはどうか?

 

家禽用ではIBVの不活化ワクチンも市販されているが、これもまた開発は複雑である。

ウイルスの不活化に用いられるホルマリンやβ-プロピオラクトンは、CoVのスパイクの構造を破壊してしまうので免疫原性を損ねてしまう。加えて、不活化ワクチンを有効にするには弱毒生ワクチンによる“プライミング”の後に使用する必要があるが、前述のように弱毒生ワクチンには安全性の懸念が伴う。

ヒトにおいてもインフルエンザのような呼吸器ウイルスに対しては不活化ワクチンが使用されている。しかし、不活化ワクチンでは、ウイルスを高力価まで培養、不活化し、安全性の高いアジュバンドと混合する必要があり、これをヒトのコロナウイルスに適用することは難しいことがわかっている。

 

なぜIBVに対する組み換えワクチンがないのか?COVID-19に対しても組み換えワクチンは開発出来ないのか?

 

CoVのエンベロープに埋め込まれて表面にあるスパイク糖タンパクは宿主の中和抗体を誘起する構造依存性のエピトープである。スパイクタンパクがエンベロープから分離された場合や、実験室内で発現させた場合には、この構造依存性のエピトープは忠実に再構築できなくなる。従って、鶏痘ウイルスや七面鳥ヘルペスウイルスなどのベクターはCoVのスパイクタンパクを発現させるプラットフォームには適していない。

自然感染時のスパイクタンパクの発現はとても特異的であり再現することが難しい。このためDNAワクチンやRNAワクチン、サブユニットワクチンなど他の組み換えワクチンを用いても正確にスパイクタンパクを産生することは出来ない。それに加えて、一般的にこれらのワクチンでは十分なレベルの局所免疫を刺激することは難しく、防御レベルに到達するためには繰り返し接種しなければならない。

感染性クローンを由来とし、遺伝子改変を加えてCoVワクチンを開発するという方法もある。この方法では、病原性ウイルスの遺伝子を変異させ有効な免疫応答を誘起する安全な弱毒生ワクチンに作り変える。しかしながら、遺伝子改変を行ったウイルスはしばしば増殖性に欠けていることや、十分な防御効果を示さないこともある。遺伝子改変はワクチン候補を作り出す近道であるかもしれないが、この技術を使用したワクチンの安全性は厳格に評価されなければならない。

しかし、悪いニュースばかりではない。鳥類の免疫システムはヒトのものと大きく異なる。家禽ではうまくいかなかったことがヒトにおいてはうまくいく可能性もある。さらに、ごくわずかな費用で経済性と動物福祉を同時に向上させなければならない家禽用ワクチンと異なり、ヒト用ワクチンではより多くの研究資金を投入することが出来る。ヒト用ワクチンの開発目標と成果の評価基準は農業分野におけるものとは全く異なるだろう。最近では、多くの種類のヒト用のCoVワクチンやプラットフォームの開発が進められている。

 

CoVの多様な血清型や遺伝子型はワクチン開発に影響を与えるか?

 

IBVには交差性を示さない多くの血清型/遺伝子型が存在する。一つのタイプのIBVに感染後、回復しても別のタイプのIBVに対する免疫を獲得することは出来ない。この理由のために、疾病をコントロールするために多くの種類のIBVワクチン(Ark、Mass、Conn、DE等)を開発された。

幸いなことに、ヒトで流行しているCOVID-19ウイルスの型は一つであると考えられている。その一方で、ウイルスの全ゲノム解析により遺伝子変異が起きていることも報告されている。多くの変異が観察されているが、これまでのところこの変異が持続したという報告はない。このことは、これらの変異がウイルスの伝播や病原性に重要ではないことを示している。ワクチン開発の見地からすると、ヒトで流行しているCOVID-19Vの型が1つであることはこの疾病を防御する上でワクチンは1種類でよいことを意味している。

 

CoVに対する治療法はあるか?

 

ヒトの医療において、インフルエンザウイルスに対しては抗ウイルス薬であるオセルタミビル(タミフル)があるものの、CoVを標的として開発された薬剤はない。宿主細胞へのウイルスの侵入や出芽に干渉する薬剤に加えて、ウイルスにコードされたプロテアーゼに対する薬剤も治療薬の候補である。現在、複数の製薬企業によりこれらを含むその他多くの抗ウイルス薬として可能性のある薬剤が試験されている。

クロロキンおよびヒドロキシクロロキンという2つの物質がCOVID-19に対して有効であり、治療に試用されていると報道があった。これらの薬剤は、マラリアや全身性エリトマトーデス、関節リウマチの治療に長年使用されている。中国からの予備データでは、これらの薬剤は細胞培養においてCOVID-19Vの増殖を停止させ、治療においても幾分かの有効性が確認されたと報告されている。しかしながら、コントロールされた臨床試験において実証されるまではこの薬剤のCOVID-19Vに対する有効性が確かであるとは言えない。

 

終わりに、このパンデミックはすぐには終息しないことが予測されている。CDC(Centers for Disease Control)とWHO(World Health Organization)の推奨に従い、自身と家族を守ることが肝心である。家禽への感染リスクはない。


 

 

 

参照文献

*1 Swayne et al. Emerging Infectious Diseases Vol. 10, No 5, May 2004

 

Note: This statement was developed on behalf of the American Association of Avian Pathologists, an international association whose mission is to promote scientific knowledge to enhance the health, well-being, and productivity of poultry to provide safe and abundant food for the world. For more information, visit aaap.info.